30th EP14

-前回のあらすじ-

最初のサンプリングは YAMAHA SPX990。ラック型のマルチエフェクター。今でいうハードのプラグインバンドルみたいなものかな。

バブルを過ぎ。数年が経った頃で。

取り壊す予定もなく廃化するラブホテルやテナントビルが点在。そこだけ時が止まり。時代の輝きは錆びれ褪せ街の影に。それも当時の北九州の景色だったと思います。綺麗に書き過ぎかな。

少々書きづらいんだけど。そんな廃ビルのドアを蹴破って持って帰ってきたのがこのSPX990。

説明書もなく。とりあえず繋ぎ。01から順にボタンを押しては鳴らす。凄まじいハウリング起こしたり。三日くらい経つ頃には全体を把握して。最後にたどり着いたエフェクトがFreeze。これがサンプリング。

といっても簡易的なもの。シーケンスはなく。リアルタイムでオーバーダビング。サンプリングタイム(録音できる長さ)も1.3秒。強めのクシャミしたら終わる長さ。

ごっこみたいなもんで。ビートメイクは不向きだけど。人間って工夫するんですね。どう作ったかを聞きたいという変人の方は直接会った時にでも。

1993年に Zhane/Hey Mr.D.J. がシングルでリリースされた時。初めて聴く曲なのに何故か懐かしく。よく知っているような。でもクレジットは新譜。その時は。その不思議な感覚をデジャブだと思ってた。

それから数年が経ち。

サンプリングという言葉を知った時に。記憶が繋がり。あの不思議な感覚の謎が解けたんですね。元ネタの Michael Wycoff/Looking Up To You は鑑別所の起床時間に流れてた曲。なるほどって感じで。

曲や音楽そのもの。知識もね。調べる。掘る。というより。出逢う。時代的にこの言葉がしっくりくるかな。レコード屋。CDショップ。レンタル。楽器屋。本屋も。出先で立ち寄るのも。音楽に関するもの隅まで見てしまうのも。特別な事ではなく。無意識。今も染み付いてる。出逢える気がする。

大切な感覚。

とはいえ。それは単に時代の話。その頃の方が良かったとは思わないかな。1.3秒のサンプラーとか無理でしょ。アマゾンないとストレス溜まるもんね。

確かなのは。盗んだSPX990がひとつの方向を示してくれたという事。まだそれは漠然とした感覚だけど。まさに出逢いはそのタイミングだったんですね。

ある日「マッキンなら解読できると思う。一旦託すわ」そう言って大きな箱を持ってきたヤッチー。その箱の中身が新品の AKAI MPC3000。

HIPHOPはサンプリングで作る。MPCという機材がある。らしい。俺が知ってるのはそれくらい。生まれて初めて見た時はピンと来なかった。でもなんかすごいね。ワクワクするね。説明書。意味不明やね。

俺の中で。機材を把握する為のセオリーがあって。一度読んでわからないものは二度読んでもわからない。先ずは説明書を閉じる事から。

ヤッチーの読みは当たり。一瞬のうちに新品のジョグダイヤルの塗装は剥げて真っ白に。今もMPCで演ってる事のすべては。この数ヶ月間で覚えたもの。

あまり長い事置いとくとジャイアン方式。俺の物になりかねない。とうぜん持ち主の元へと戻るわけで。でもね。長い時を経て。ヤッチーの手から人の手へと渡り。旅を経て再会。この時に初めて触れた新品のMPC3000を。俺は今も使ってるんですね。

楽器が人を選ぶ。

そんな話を聞いた事があります。それを俺に当てはめるのは言い過ぎだけど。運命的なものを。自分の中で感じてます。

すべて人生の一場面。

託されたこの間(かん)。完成したのはたった一曲。そして。この時期の俺は。いつ壊れてもおかしくない状態で。ある出来事で。完全に壊れて。

あの日に完成した音が。このMPCで作る最初の一曲でした。

I&I