30th EP12

-前回のあらすじ-

それはとても短い電話で。

話があるんやけどの。今から出てこれるか。と電話の先。ABの件なら自分から出向く理由がないですね。そう答えて。

「なら俺から行くぞ。いいか?」
「わかりました。じゃあうちで」

この状況。話の流れ。当時をよく知る人ならこう思うんじゃなかな。マッキン終わったね。たしかに。その世界の事を知らないけど。この人の天職は極道だと思う。でもね。相手によって態度を変えるのは違うと思う。電話を切り。インターホンが鳴るまで早かった。

「お前の話を聞かせろ」

思ってた展開とは違ってた。この時。麻生さんは何故そう思ったのかな。今でも分からない。俺自身も不思議と落ち着いててね。これまでのABとの経緯(いきさつ)を話し始めて。すると話の途中で麻生さんは急に笑い出して。

「お前おもろいの」

この人の癖。ツボな話。話す時も聞く時もそう。途中で本人が笑い始めてね。オチに辿りつかない。それにつられてこっちも笑っちゃう。俺はこの人のそういうとこが好きで。この時もね。自然につられてた。

すべてを話す必要のない人。結果的にABをブラジル送りにしたのは麻生さん。

俺はの。マジな話をする時のこの人の口癖。ミックはの。DJの話をする時の口癖。そのどちらも生き方を信じる事だと思う。GM MICKことミックさんがこの人のDJの師匠。

この時期。この人の「ミックはの」を通して。ラジオのテープでは知る事が出来なかった大切な事を学んでいくんですね。

ある夜。坂本さんがやってたDJ BAR ディキシー。

その夜は麻生さんと一緒にDJ。ゲストはミックさん。トップバッターは俺。他のDJを挟み。麻生さんからミックさんのプレイへと。その後だったかな。

麻生さんの紹介されミックさんに挨拶。すると「お前は何時からか?」すでに終えた事を伝えると「今からもう一回いけ」と問答無用だった。この間(かん)、ミックさんに笑顔は一ミリもなかった。

そして40分のプレイを終え再び二人の元へ。ミックさんはおもむろに俺の胸元を掴みグッと引き寄せて二言(ふたこと)だけ。

「お前いいの」
「そのまま行け」

そう言うと。みんながよく知る。いつものあの笑顔に。それまでの機材の前の時間が報われる場面。隣を見ると麻生さんが嬉し涙。自分にとって最良の日を。自分以上に喜んでくれる人。初めての経験だった。

魂というのは出逢った人との場面に根付いていくんですね。俺にとってこの時期が三つ子のそれで。俺が話す事。俺が伝える事。共に音楽を作ってきた人は腑に落ちるんじゃないかな。

これを書いてる今日も迷いなく思うんですね。

俺は「そのまま」行きますよ。

I&I