30th EP8

-前回のあらすじ-

振り返ると。この頃(20代)はよく、とつぜん道端で呼び止められお祈りさせられてた。この人通りの中なぜに俺?と謎だったけど。救いが必要そうに見えたのかな。

学んで成長して。でも評価は自分や身内じゃなく他人が決める事。次はあるのかな。DJの帰り。バスや電車、歩きの帰り道にいつも考えてた。

普段はズレまくってるただのお調子者。でも、こういう時の俺は彼女でさえ声を掛けれずにいて。

駅裏のラフォーレ。タワレコから島村楽器、カメレオンレコードからダウンビート。緊張しながらファンキードレッド。俺の興味は新しいHIPHOP。中古レコードには興味なかった。

DJは踊らせてなんぼ。その古き良き伝統もクソ食らえだと思ってた。DJの準備。と同時に心の準備。茶化してくる奴は全員殺してやる。気づいてないのは自分だけで。この悪目立ち。ある意味それも個性だったのかも。

その夜も俺の立つブースとフロアはいつも通りのソーシャルディスタンス。

だったはずが。

プレイの中盤頃かな。フロア奥から「アーイ」の声。次の曲にも「アーイ」その次の曲にも「アーイ」その次も「アーイ」ラストまでアーイ。なんだろう?このアーイの高揚感。

ブースから降りると笑顔の手本みたいなスマイルで「自分いいやん」。

いきなりタメ口。やや上からだし。それが不思議とね。まったく嫌な気持ちにはならなかった。これが当時高校生。ダンサーでDJだったGOODはぷにんぐ☆ことヤッチー。

相手の心に気持ちよく飛び込める人柄。時代をとらえる才能。惹きつけるだけじゃなく人と人とを繋ぐ力にも長けてて。そんなヤッチーの心強い「アーイ」を手に入れてからは状況や自分自身の心境にも少しずつ変化が。

ダンサーといえばある夜。

フロアは全員ダンサーでパンパン。ブースにはハウスのDJ。みんなも曲知ってるみたいで一曲毎に熱を帯びてあがりまくってた。ちょうどそのピークを越えた頃にDJ交代。その瞬間、全員が箱を後に。ラップも始まってないイントロでね。

そのレコードを見つめ。吐いた息で33回転が45回転になりそうなくらい深いタメ息ついて。ダメだ。これに飲まれたら終わりでしょ。もう一呼吸。ふと視線を戻すと「ん?」

一人のダンサー。全員じゃなかった。スピーカーの前にたった一人。身体揺らしながらスピーカーに向かい音に集中。そんな雰囲気だった。そのダンサーの動き。俺の知ってるそれとは何かが違う。なんていうのかな。そう。洗練され、かつ新しかった。

その姿にスイッチが入り次の曲へ。これはどうかな。これはどうだろ。いや、これっしょ。スピーカーを通してシンクロする 1 on 1 の時間。気づかないうちに熱くなっててね。

ブースから降りるとそのダンサーは汗だくだった。ひょうひょうとして、それでいて温かみのある関西訛りで「めっちゃ良かった〜」と。彼の名はソロモン(本名)。初めて出逢ったHIP HOPのダンサー。

なにより驚いたのは初めて家へ遊びに行った日。棚には何千枚のレコード。そこには探してたものや聴いた事のないヤバい新譜が。俺なんかより遥かに理解してたんですね。カルチャーそのものを。

確信だった。この人は本物だと。

I&I