30th EP17

-前回のあらすじ-

2019年に取り壊された旧小倉拘置所跡地から長崎街道の路面(江戸期)が出土したそう。ネット情報です。

1998年3月。旧拘置所南側の5階。通称5南。番号は219。この出来事が。人生において何かを変えたかと言えば。そうでもなく。三度三度飯を食って屁をこいて糞を垂れる機械。寅次郎先生が言う所の造糞機。

7時起床 9時消灯。久々の勾留生活も。日毎(ひごと)に慣れてくもので。人差し指と中指でペンを挟みエアー煙草。ノートに円描いてエアースクラッチ。

5南の並びは独居房。面会や運動時間以外は人と接する機会もないので。房内では本を読んだり。物事についてほんの少し考えたり。届いた手紙を読んだり。書いたり。そう。手紙。

この時代もそう。手紙なんて書く事ないから。きっとね。便箋を前に。何書けば?そんな感じだったと思う。

そこには。その日あった事。感じた事。何気ない日常が綴られて。筆に不慣れな。そのぎこちなさが。優しく。温かく。美しく並べられた借物の言葉より。伝わるんですね。まるでその人の声が聴こえてくるみたいに。

今でも時々ね。5南に届いた手紙を読み返すんです。これは昔話で。とうに過ぎた事。もう逢えない人もいる。だから。読み返す度に。心の中で。あの時。ちゃんと伝える事が出来なかった。その時の手紙のあなたにありがとうを。

今もヒップホップ。音楽を学んでる途中で。芸術的で。文学的で。数学的で。アスリートのように練習も必要で。それ以上に。その音の先に。俺自身の姿が見えるものを作りたい。そう思ってます。

もういいんよ肛門は事件。親分チンコが赤ちゃんやん事件。ここでもいくつかドラマがあるんだけど。フォロー外される系の話なので。それについては酒の席でいいかな。

ひとつ個人的にびっくりだったのは。運動時間に「マッキンさんですか?」と声掛けられた事。これがエイジュとの出逢い。

お互い数週間違いの出所で。共通の繋がりだった北九州を代表するダンサー。PPMのタケさんとアキラが我々のお祝いイベントを黒崎の箱。ウイングで開いてくれて。その夜に出逢ったのがDJ BEI。

この夜にBEIが教えてくれた曲。アーティストとか忘れちゃったんだけど。ジャケットのデザインは鮮明に覚えてて。とにかくスクラッチのリズムの取り方がカッコよくてね。

話を少し戻すと。所内での俺の関心事。そのひとつがGANG STARRのNEW ALBUM。

先行でリリースされたシングル YOU KNOW MY STEEZ。97年後半から98年。もっともプレイした一曲。このシングルでアルバムの完成度は聴く前から俺の中で確定で。アルバムのリリースはいつだ。きっと世界中の人が待ってたと思う。

俺も「ギャングスターは?」「アルバム出た?」面会の度に全員に聞いてた。帰りにダウンビート寄って入荷確認してほしい。自分でも思うくらい本当にしつこくて。中じゃ聴けないんだけど。とにかくジャケットだけでも早く見たくて。

ちょうどこの季節。

先行入荷してたCDを。友達が面会室のガラス越しに。しばらく黙ってた。ただ静かにね。ジャケットを眺めてた。感動だった。このジャケットデザインを面会室で見る姿。割とシュールな絵だけど。Moment Of Truth。この瞬間も。忘れられない場面のひとつです。

判決を終え。所を後にし。乗り込んだ友達の車で聴いたギャングスター。アルバム聴き終えるまで遠回りしてくれてね。

その日は雲ひとつない五月晴れでした。

I&I