30th EP21

-前回のあらすじ-

古いアルバムに残ってる一枚の写真。TKのソロライブ。場所はPAST or FUTURE。

パストで演るレギュラーパーティーはいつだって最高だった。ただ。それはこの小さな街の。ひとつのブロック。ひとつのコミュニティ。ひとつの場面であって。

その夜のパストは最前列から最後尾。身動き出来ないほど。東京から迎えたゲストDJの登場を待つ。ステージから見渡す。ほぼ初めましてのフロア。ライブは絵に描いたようなノーリアクション。並んだ地蔵みたいだった。

この頃。ライブハウスでバンドと一緒になる機会も多く。時代の話。ミュージシャンのヒップホップに対する偏見。地方であればあるほど。そういった考えは根強かったと思う。

俺たちの本番。そのライブを無視して次のバンドが音出し始めたり。そういう場面も珍しい事ではなく。そういったトラブルの度にキレてはいたけど。その場面について。二人で話した記憶はほとんどないかな。

お互い。たった一人から始めて。物事のスタートはいつだってアウェイ。中指立てる事には慣れてた。

ある時にふと気づいたのは。何事も事前に。シンプルに。主催者や次のバンドに「音出したら殺すよ」そう伝えるようになって。それでもの時は有言実行して。でもね。それだけじゃ足りないという事も。俺たちは知ってた。

ラッパーとのLIVE。

この時の俺は。二台のターンテーブル。二枚のレコードで。ビートをブレイクさせ。その上に乗るラップも。ひとつのサウンド。音として捉えてたと思う。

N9のファーストからソロアルバム802FLAVA。わずか一年足らず。セルフプロデュースのこのアナログ。作品として大きく進化し完成してた。それは驚くほどで。

ソロになってからのライブ。この時はまだ模索してた。ひとつひとつの曲を眈眈(たんたん)と進めてく。ステージでのTKは無口だった。

その言葉(RAP)がフロアで空を切る場面。俺自身も常に苛立ちはあったけど。逆にその時間が。言葉(Lyric)を生かす。その事を意識し始めるキッカケになり。

この「言葉を生かす」という意識が。のちにすべての基盤となり。俺の中の。音楽を作る上での。ひとつの原点になったんですね。

あの日もそう。いつも通り自宅のDJブースに立ち。TKのリリックを口ずさみながら。組み上げた新しいライブのルーティン。今までとは違う何かを感じてTKに連絡。この時すでに俺自身は確信してた。

合わせてみると。やはり今までとは違う。1MC1DJで作る新たなバランス。二人で作る新たなステージが。この瞬間。目の前をモノレールが走る。あのビルの5階で生まれたんですね。

ここから時代は2000年代へ。

I&I